定年を迎え、再雇用という形で新しい働き方をスタートさせてから、私が最も意識していることがあります。それは「極力、残業をしない」ということです。現役時代であれば「残業代で稼ぐ」という考え方もありましたが、60歳を過ぎてからの再雇用においては、その常識が正しいとは限りません。
なぜなら、この年代の会社員にとっては、課税対象となる「残業手当」を必死に稼ぐよりも、非課税の「高年齢雇用継続給付金」を賢く受け取る方が、結果として「手取り」の効率が良くなるからです。
知っておきたい「高年齢雇用継続給付金」の仕組み
この制度は、60歳以降の賃金が定年前(60歳時点)の75%未満に低下した際、雇用保険から支給されるものです。最大で現在の賃金の15%相当額(現在は10%)が支給されますが、ここには重要なルールがあります。それは「給与が増えると給付金が減る」という仕組みです。
もし残業をして給与が増えてしまうと、支給対象となる「賃金の低下率」が縮まり、結果として受け取れる給付金の額が減額されてしまいます。せっかく夜遅くまで働いて残業代を稼いでも、その分、国からのサポートが削られてしまうのでは、効率が良いとは言えません。
「課税」と「非課税」の大きな差
さらに決定的な違いは、税金の有無です。残業手当は通常の給与と同じく所得税や住民税の対象となり、さらに社会保険料も差し引かれます。しかし、高年齢雇用継続給付金は「完全非課税」です。つまり、振り込まれた金額がそのまま、目減りすることなく手元に残るのです。
「額面の数字」だけを見れば残業をした方が多く見えるかもしれませんが、税金や保険料、そして給付金の減額分まで考慮した「実質的な手取り」を比較すると、定時でスッと帰る方が合理的であるケースが多々あります。
体力と時間のゆとりを優先する
60歳を過ぎれば、体力的な衰えも無視できません。無理をして残業代を稼ぐよりも、定時で仕事を切り上げて体調を整え、趣味や自己研鑽、あるいは家族との時間に充てる。その上で、非課税の給付金をしっかり受け取る。これこそが、人生の後半戦における「賢い働き方」ではないでしょうか。
定年を控えている方や、すでに再雇用で働いている方は、ぜひ一度ご自身の給与と給付金のバランスをシミュレーションしてみてください。そして、申請漏れがないよう、お勤め先の担当部署やハローワークで詳細を確認しておくことを強くお勧めします。
高年齢雇用継続給付をもらうと、年金が一部カット(支給停止)される?
60歳以降、「特別支給の老齢厚生年金」を受給しながら働き、さらに「高年齢雇用継続給付」も受け取る場合、注意しなければいけないポイントがあります。
それは、年金の一部がカット(支給停止)される「併給調整(へいきゅうちょうせい)」というルールがあることです。
両方を満額で受け取ることはできず、高年齢雇用継続給付をもらう代わりに、年金側が少し減額される仕組みになっています。
いくらカットされる?(減額の目安)
カットされる年金の金額は、その月の「標準報酬月額(ざっくり言うと毎月の給料)」の最高3.18%(※新ルール対象者は最高2.12%)です。
- 昭和40年4月1日以前生まれ(旧ルール・最大15%給付)の人
➔ 年金からカットされるのは、最高で給料の3.18%分 - 昭和40年4月2日以降生まれ(新ルール・最大10%給付)の人
➔ 年金からカットされるのは、最高で給料の2.12%分
給付金が減額された(15%→10%になった)ことに伴い、年金のカット額も合わせて少なくなっているのが2025年4月改正以降のポイントです。
【注意】「在職老齢年金」によるカットは別カウント
働きながら年金をもらう場合、給料と年金の合計額が月額65万円を超えると、年金がカットされる「在職老齢年金」という制度がベースにあります。
今回ご紹介した「高年齢雇用継続給付によるカット(最高2.12%〜3.18%)」は、その65万円の計算とは「別」で、さらに上乗せしてカットされるものです。
60歳以降のマネープランを立てる際は、「給料 + 給付金 + 年金(カット後)」のトータルでいくら手元に残るかを計算することが大切です。
※更新日:2026年9月10日



