定年後の働き方として「社会保険料を引かれたくないから週19時間以下に抑えよう」と考えるシニア層は少なくありません。特に2026年10月からは、賃金要件(月収8.8万円以上)が撤廃され、「週20時間以上」の労働で原則すべての企業で社会保険加入が義務化されます。いわゆる「106万円の壁」が無くなるのです。

しかし、目先の手取り減を恐れて「働き控え」を選択するのは非常にもったいない判断になり得ます。一時的な負担以上に、社会保険加入と収入増がもたらすメリットや、夫婦世帯全体で見た場合の利点をFPの視点から解説します。

1. 「働き損」は一時的!時間を増やせば手取り総額は確実に増える

週20時間を超えて社会保険に加入した直後は、健康保険料・厚生年金保険料(労使折半で約15%)が差し引かれるため、確かに「手取りが減った」と感じます。

しかし、これは「週20時間ギリギリ」で働いた場合の狭いゾーンに限った話です。労働時間を少し延ばして週25時間〜30時間程度まで稼働を増やせば、引かれる保険料を上回る給与収入が得られ、最終的な手取り月収の総額は確実に逆転します。労働時間を自ら制限して収入の上限にフタをする必要はありません。

2. 65歳以降の「在職定時改定」で毎年年金が増える

厚生年金に加入して働く最大の恩恵は、納めた保険料が将来の受給額にダイレクトに還元される点です。

  • 在職定時改定の仕組み:65歳以上で厚生年金に加入して就労すると、前年9月から当年8月までに納めた保険料の実績が反映され、毎年10月分(12月支給)から受給できる年金額が自動的に増額されます。
  • 生涯の終身年金の底上げ:週20時間未満で働き保険料を納めない場合、将来の年金は1円も増えません。厚生年金に加入して働くことで、リタイア後の「一生涯もらえる年金(終身年金)」のベースを自ら引き上げることができます。

3. 国民健康保険にはない「手厚い保障」を会社負担で得られる

シニア世代にとって、健康リスクへの備えは極めて重要です。社会保険(健康保険)に加入すると、国民健康保険にはない強力なセーフティネットが手に入ります。

  • 傷病手当金の支給:病気やケガで連続して3日以上休んだ場合、4日目から最長通算1年6カ月にわたり給与の約3分の2が支給されます(国民健康保険には原則ありません)。
  • 保険料の会社半額負担:国民健康保険料は全額自己負担ですが、会社の健康保険なら会社が半分を負担してくれます。
  • 高額療養費制度の負担区分:被用者保険に加入していることで、万が一の入院・手術時にも給与水準に応じた上限管理がスムーズに行われます。

4. 配偶者(妻)の働き方とのセットで考える

夫が定年退職・再雇用で収入が変わる時期は、配偶者の社会保険も見直す好機です。

これまで「第3号被保険者(夫の扶養)」だった妻も、2026年10月以降に週20時間以上働けば自ら厚生年金に加入することになります。目先の手取りは減るものの、妻自身の老齢厚生年金が増えるため、将来夫に先立たれた場合の遺族年金や自分自身の年金基盤を強固にする効果があります。

夫婦それぞれが自前の厚生年金を持つことは、世帯全体の老後リスクを分散し、長期的な生活の安定につながります。

5. 「働き控え」vs「社会保険加入」の徹底比較

比較項目週19時間以下(働き控え型)週20時間以上(積極就労型)
毎月の給与手取り保険料は引かれないが給与上限が低い時間を延ばすほど手取り総額は増大
将来の年金額現状維持(1円も増えない)在職定時改定で毎年増額(生涯年金UP)
病気・休業時の保障なし(休職中は無収入)傷病手当金(給与の約3分の2)あり
保険料の負担国民健康保険料を全額自己負担会社が保険料を半分負担(労使折半)
世帯の年金基盤扶養の枠組みに依存しやすい夫婦共働き・ダブル厚生年金で盤石化

6. まとめ:2026年10月以降は「週の労働時間」が分かれ道

「106万円の壁」が無くなる、2026年10月の改定以降、定年後の就労設計は「稼ぐ金額」以上に「週の労働時間」が決定的な分かれ道となります。

「手取りが減るから時間を減らす」と守りに入るのではなく、「健康と体力のバランス」「年金受給額」「手取り」の3点を踏まえ、社会保険の手厚い保障を活用しながらしっかり働いて手取りと生涯年金を増やす――。契約更新のタイミングで、ご自身やご家族にとって最も納得のいく労働時間を選択しましょう。

106万円の壁撤廃。定年後もしっかり働くのが正解

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